そもそも金の売り時・・・金の公表価格が上がるのはどんな時ですか?
金相場では、次のような要因で価格が上昇しています。
- 為替が円安になった
- 国際的な金融不安が起こっている
- どこかしらの国が金を買ったという情報が出回る
- 新興国の需要の高まり
それぞれ詳しく説明していきましょう。
為替が円安になった
円安だと、金の価格が上昇するのですか?
はい。
円安になると、ブランド品やワインなどの輸入品が高くなったり、ガソリン代(原油)が値上がりしますよね。
日本で金は採れませんから、金は輸入品に該当し、為替の影響をもろに受けるのです。
ですから、為替が円安の時は、円建てでの金の公表価格も上がるのです。
ただし、2025年の高騰は少し特殊です。
金の価格が20,000円を超えた2025年9月では、1ドルあたり145円~150円前後で比較的安定していました。
1ドルあたり105円前後だった2020年に比べると極度の円安傾向ではありますが、2023年後半からは145~155円の間で変動していて、ずっと円安になり続けているわけではないのです。これは、世界的な経済不安からドル建てでの金価格も上がっているため、金の急激な高騰が引き起こされているのです。
国際的な金融不安が起こっている
よく聞く話ですが、金融不安や情勢不安は金の価格に影響を与えるのですか?
はい、有事の金という言葉があるのですが、先行きが見えない不安な時に、人は金を求めます。
その理由はこうです。
「これから景気が悪くなるかもしれない…」という金融不安が起こると、投資家たちは株などから資金を引き上げる傾向が強まります。
極端な話、株券がただの紙クズになってしまうリスクを避けるためです。
株や貯蓄などの金融商品は、景気がいい時は配当や金利を生みますが、景気が悪ければ、一瞬でその財産を失ってしまいかねません。
それに対して金は、金利はつかないものの、価値が消滅することはないですよね。
景気が悪くなる時や情勢が不安な時に、安全資産である金の需要は高まります。
欲しがる人が多ければ、金の価格は上昇していきますから。
2005年以降の出来事でいうと、金相場に影響を与えた金融不安は以下ですね。
- 2008年 サブプライムローン、リーマンショックをはじまりとする金融危機
- 2008年 アメリカや主要国の大規模な量的緩和政策(ゼロ金利政策)
- 2009年 ギリシャ危機
- 2017年 スペインのカタルーニャ地方の独立運動
- 2019年 米中貿易摩擦
- 2020年 新型コロナウイルス感染症による経済危機
- 2022年 ロシアによるウクライナ侵攻
- 2025年 アメリカ関税政策による貿易戦争の激化
サブプライムローンをきっかけとした一連の金融危機では、『ドルが危ない』と投資マネーが、金へと流れました。
同様に2010年のギリシャ危機では、『ユーロの価値がなくなる…』という不安が広がり、金の需要が高まったのです。
アメリカの金融緩和政策(ゼロ金利政策※)は、「ドルに金利をつけません」という政策ですから、銀行にお金を預けても利息がつきません。
利息がつかない預金に魅力はないため、「どうせ金利がつかないなら、リスクの少ない金のほうがいい!」と、金投資のニーズが高まりました。
2017年は、スペインのカタルーニャ地方の独立運動が、地味に金相場に影響を与えています。やはり、ユーロに対する不信感が起こったためです。
2019年は米中による貿易戦争や世界経済の状況が懸念され、今後金の価値が2013年を上回るのではないかと噂されていました。
2020年「コロナ経済危機」は、人々の健康危機が原因で世界経済が一時的に大混乱し株価が急落、金融危機が懸念されました。
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻によって、エネルギー・食料価格が急上昇し、世界中でインフレや経済不安が広がりました。
これをきっかけに2023年には戦争・エネルギー高・コロナ後の需要増などが重なって、物価が高止まりし、各国が「インフレと景気の両立」に苦しみました。
2025年はアメリカと中国がお互いの輸入品に高い関税をかけて報復合戦が続いており、物価高を助長しています。
こういう先行きが見えない時ほど、安全資産である金が買われ、金相場が上昇します。
(※)
アメリカが意図的にドルの魅力をなくし、ドル安を誘発した政策。
身近なところでいうと、北朝鮮のミサイル発射は金相場に影響を与えますか?
北朝鮮のミサイル発射が為替相場に与える影響は、かなり限定的です。
今のところ多少為替が変動しても、1日ほどで元に戻っていますね。
つまり、金の価格にも影響はほとんどありません。
ちなみに、「ミサイルが落ちた時のために金を買っておこう」という方もいますが、これは素人考えかもしれないです。
「万が一、日本にミサイルが落ちても、日本円は上がる」と投資家の間ではみられています。
「その後の復興需要が必ずあるから、円が買われる」のだそうで、今のところその動きに大きなズレがありません。
実際に東日本大震災の時も、復興需要で積極的に円が買われたといいます。
自国の危機に、自国の通貨が上がるの値動きをするのは円だけで、特殊な現象なんだそうですね。
つまり、日本でミサイル飛来などの情勢不安があったとしても、金相場が跳ね上がることは考えにくいといえます。
どこかしらの国が金を買ったという情報が出回る
「国が金を買う」とはどういうことでしょうか?
実は、金を持っているのは個人だけではありません。
国も資産として金を保有しているんですよ!
下のグラフをご覧ください。これは世界に流通している金の用途を示しています。
世界にある金のうち、44%がネックレスや時計などの宝飾品、26%が金現物や積立、投資信託等で利益を得る投資、7%が機械の回路などの工業製品に使われていますね。
それ以外の24%は、各国の中央銀行が準備資産(国際的な決済をおこなう)ための『資産』として保有されている金なのです。
各国が保有している金のうち22%がアメリカ、9%がドイツ、8%がIMF(国際通貨基金)、以降イタリア、フランス、ロシア、中国といった順位になっています。
もちろん日本でも日銀が金を保有しているのです。
当然、国が保有する金ですから、ハンパな量ではありません、トン単位です。
どこかの国が金を買うとなると、トン単位の金が一気に吸い上げられていくため、市場に出回る金の量が減少します。
数が少なくなれば価値が上がりますから、金の価格は一気に上昇するんですね。
特に2010年以降は、金を売る国より、金を買う側に回っている国の方が多いようです。
国による金の売買ニュースを事前にキャッチすることはできますか?
こういうニュースは国家機密ですから、事前に流れることはまずありません(笑)。
後になって、「〇〇白書」のようなレポートで、「実は中国が金を買っていた」という事実が明るみになります。
そのニュースが出たとたんに、証券会社や個人投資家も一気に動くでしょう。
とくに中国とインドが金を買ったときは、金価格に大きな影響があり、金相場が上昇します。
新興国需要の高まり
中国やインドのような新興国の影響が大きいのですね?
はい。
最近の金価格を押し上げているのは、中国、インドや南米などの新興国が金を求めているから、というのもあります。
先ほどのグラフでいうと、金用途の44%を占める宝飾品需要のほとんどは新興国のものです。
これらの国の経済成長が著しいことはご存知ですよね。
中でも中国人とインド人は、金が大好き。
歴史的にも金を身に着けることがステータスになっています。
経済成長で富裕層が増えたため、中国やインドでは、金でできた宝飾品の需要が増えました。
こうした要因によっても金の高値が続いています。
ちなみに、私は個人的に中国よりインドに注目しています。
中国は2021年頃から不動産不況が始まり景気が失速している一方で、インドの経済成長は堅調に推移していて中国を上回るほどとなっているからです。